
奈良康明
佼成出版社より旧版『アジア仏教史』全二十巻が刊行されたのは昭和四十七年のことでした。総合的仏教史として、インド、中国、日本を中心に、仏教の流れを教理、宗派、教団の面から叙述されたものであり、長く仏教史の基本として読まれてきました。爾来、三十余年を経て、仏教研究を取り巻く環境は激変しています。
今日、「大蔵経」をはじめとするテキストのデータベース化も進展し、碑文や金石文など、あるいは「切紙」などの新しい資料の発見、発掘により幅広く、精緻な研究が可能となっています。仏教研究に関連する諸学問分野である歴史学、民俗学、神話学、美術史、文学史、考古学、建築学なども著しく進展し、新たな研究資料も増加しています。特に仏教史に関しては新しい視座が開発されつつあり、旧来の仏教史に代わる、新たなスタンダードが求められています。西欧的な文献学的手法から、従来軽視されてきた儀礼、制度、女性、民俗的慣行、文学、建築、社会生活との関連等、幅広い面から仏教を検討することが必要になっています。
「仏教とは何か」「仏教をどう見るか」という現代の問題意識は、同時に過去の仏教の歴史を構築する際にも妥当性をもっており、現代における仏教研究は過去にフラッシュバックされる必要があります。本シリーズは学際的な研究業績を踏まえつつ、人びとの生活のなかに支えられ、伝承されてきた仏教の歴史を広く思想と文化を統合する面からとらえ、現代における「新しい仏教史」の構築を目指すものです。
