
今までの「仏教史」というイメージからはずれる新しい「仏教史」が出版された。特色の一つは仏教の歴史を見る視点が大きく変わっていることである。インド、東南アジアの仏教については従来の西欧文献学的アプローチを乗り超えた。日本仏教史についても伝統的な宗派の教理史ではなく、思想、文化の面から新しい視野が開かれている。最新の資料を駆使し、最新の研究に基づく「新アジア仏教史」であり、今後の仏教史のスタンダードとなる出版である。
近年の仏教研究の進展は著しい。文献に基く仏教学や歴史学だけでなく、遺物に基く考古学や、現状調査に基く人類学なども大きな成果を挙げている。地域的にも、インド・中国・日本の三国史観の誤りが指摘され、東南アジア、中央アジア、韓国・ベトナムなどの仏教の重要性が明らかになってきた。本シリーズは、それらの最新の成果を全面的に取り込んだ。それにより、仏教史の観念そのものが大きく変わり、教理や宗派中心の見方が完全に覆されて、きわめて多面的で魅力的な仏教の姿が浮かび上がってきた。仏教を改めて考え直すために、ぜひ手に取っていただきたいシリーズである。

編集委員:奈良康明/下田正弘
仏教を成立、発展させた基盤はインド亜大陸にある。ヒンドゥー文化を形成しながら、そこから生まれてきた仏教。古代の歴史と社会、宗教の起源、儀礼と文化などの諸相に着眼しながら、仏教が世界史上に出現した背景を考察する。
編集委員:奈良康明/下田正弘
インド仏教を 1. 原始仏教の時代 2. 部派仏教の成立 3. 大乗仏教の成立 4. 密教の成立という四区分法にしたがって詳解し、加えて、13世紀初頭にはほとんど姿を消していた仏教が、近代になって再受容されていく過程を探る。
編集委員:奈良康明/下田正弘
経・律・論の三蔵からなる仏典は、釈尊の時代から現在にまで伝わる。その数は八万四千といわれるように膨大なものがある。成立の時代も、信仰・実践の背景も異なる仏典の内容を分類し、簡潔に解説しながらブッダの世界に迫る。
編集委員:奈良康明/下田正弘
編集協力:林 行夫
スリランカ及び東南アジア大陸部の諸国家(ミャンマー、タイ、カンボジア、ラオス)を中心に、また複数の国家にまたがる地域にも目を向け、生活のなかに生きる仏教を明らかにする。フィールドワークを重ねた最新の研究成果を盛り込む。
編集委員:奈良康明/石井公成
東は敦煌から、西はローマ・アテネへとつながる中央アジアの各地では、現在も積極的な発掘が研究者たちの手によって行われている。数々の遺跡や文献がもの語る国家興亡の歴史、そして多種多様な宗教に侵食されながらも確かにそこに存在した仏教の残影...。いまなお新たな仏教の歴史が解明されつつある最新の中央アジア研究の成果を問う。
編集委員:沖本克己
編集協力:菅野博史
中華文明圏への仏教伝来は、インド発祥の宗教思想を"漢訳"という形で受容し、東アジアにおける広範な伝播を加速させた。その一方で、歴代王朝の統治理念である王法と仏法との摩擦、さらに儒教・道教・仏教という三教論争も盛んとなる。伝来から漢訳事業、三教論争の流れを見つつ、中国初期仏教の様相を明らかにする。
編集委員:沖本克己
編集協力:菅野博史
隋唐時代は、インド仏教が中国的変容を遂げ、空前の発展を見せた転換期。禅・浄土・天台・華厳・密教など今日いわれる宗派形成の方向性も徐々に示されていった。統一国家と仏教の相互関係、教学形成の過程を明らかにしつつ、中華大帝国の歴史に刻まれた仏教興隆の姿を概観する。
編集委員:沖本克己
編集協力:菅野博史
宋代以降、仏教は儒教との思想的融合が顕著となり、国家的統制の中で命脈を保っていく。その一方、元朝では新たにチベット仏教が伝来し、清朝に至るまで独自の文化を形成した。このほか、都を離れた山林での修行、貿易交流を介した日本への伝播、民間信仰など、王朝交替のはざまで中国仏教が辿った多様な姿を考察する。
編集委員:沖本克己
編集協力:福田洋一
観音菩薩が守護する国・チベットの歴史は、インドの正統な仏教思想を取り入れ、膨大かつ精緻な密教の修行体系を確立する歩みでもあった。四大宗派の思想哲学からダライ・ラマ14世の平和活動に至るまで、チベット仏教の真実を全角度から詳解する。
編集委員:石井公成
朝鮮半島とベトナムに、仏教はどのように伝わり受容されてきたのかを古代から現代まで時代別に紹介する。また、中国と周辺諸国の仏教を通じた盛んな交流史と、その相互影響についても探る。
編集委員:末木文美士
編集協力:松尾剛次/佐藤弘夫/林 淳/大久保良峻
仏教の伝来は、思想のみならず建築・美術・文学等さまざまな分野で日本文化を大きく開花させた。盂蘭盆や彼岸の行事は、現在でも多くの宗派の年中行事として行われている。日本仏教の基礎を築いた仏教伝来から平安仏教の展開を多角的に論じ、その深層を探る。
編集委員:末木文美士
編集協力:松尾剛次/佐藤弘夫/林 淳/大久保良峻
かつて鎌倉時代の新仏教登場は中世仏教の幕開けを告げる画期的出来事と捉えられた。しかしその姿は近年劇的な変化を遂げている。思想や教学だけで語る時代は終わり、仏教は文学や都市論などさまざまな分野からのアプローチによりその世界の豊穣さを紡ぎだす。
編集委員: 末木文美士
編集協力:松尾剛次/佐藤弘夫/林 淳/大久保良峻
近世の「仏教堕落論」は超え難い大きな壁であったが、近年の研究によりそれは乗り越えられつつある。キリシタンや寺檀制度の新たな姿、民衆のなかに根づいた流行神などからの多様なアプローチ。「近世こそが仏教が民衆化した時代である」。その生き生きとした仏教世界を探る。
編集委員:末木文美士
編集協力:松尾剛次/佐藤弘夫/林 淳/大久保良峻
近代仏教は神仏分離と廃仏毀釈に始まる受難の出発であった。近代化、そして資本主義の発展とともに顕在化する社会の矛盾。仏教は再び新たな思想形成に着手し、禅は知識人に大きな影響を与え、新しい文学も芽生えた。ようやく見え始めた近代仏教の真実の姿を探求する。
編集委員:末木文美士
編集協力:松尾剛次/佐藤弘夫/林 淳/大久保良峻
近年の文明が及ぼす地球規模の急速な変化。科学と仏教、教育・福祉と仏教、ジェンダーと仏教など、現代仏教が直面する多くの問題。仏教はどう考え、何を成してきたか、そして未来に向けて何を提言できるのか。これからの仏教の行く末はいかに......。